「誠実さ」@深代淳郎の天声人語


 
朝日新聞社刊 P80から抜粋)

 政権を維持し、あるいは獲得するために、政治家が術策を必要とすることを否定するつもりはない。だが、それだけでは政治ではない。その底に民衆に対する「誠実さ」があるべきではないか。リンカーンの言うように政治家は「すべての人をしばらくの間、あるいは少数の人を常に愚弄できても、すべての人を常に愚弄することはできない」。
 いまの世に即効薬がないことぐらい、だれでも感じている。だから政府が真剣に考えれば考えるほど、答弁に窮する場合だってあるはずだし、そこにむしろ誠実な政治家を見ることさえできる。首相が、むずかしい世の中だが自分はこう考え、こう努力したいと率直に訴えることをみんな望んでいるのだ。
 イギリスの暗黒時代に、チャーチル首相は「リビアでわが軍は惨敗した。ドイツ軍の進撃は予想以上に速かった。わが装甲部隊もその猛攻に歯が立たなかった」と、国民に説明する勇気をもっていた。キューバの失敗後、ケネディ大統領は「わたしの計画で諸君に不便、困苦、あるいは犠牲を払わせなかったものは一つもない」と率直にのべたあと、宇宙開発への協力を求めた。
 政治家に正直さがあってこそ、国民の力を引き出すことができる(S48.12.5)

 
「漢字が読める麻生総理」とも揶揄される鳩山首相ですが、偽装献金問題を棚に上げておくと(上げていいのか?)誠実っぽい感じがしないでもないのは人柄ゆえでしょうか。