広告業界におけるPVR(Personal Video Recorder)の脅威、について

 近頃よく喧伝される説で「PVR(HDD/DVDレコーダー)が普及するとテレビCMはスキップされ、広告業界(&民放)は衰退する」というのがある。
莫迦ですね〜 そんなことはありませんよ」という話。


 まず。「そもそもCMなんて誰も見ちゃいません」(爆)
 もちろん冗談だが、広告というのは本来余計なものなのだ。マス(大衆)に対して半ば強制的に「振り向かせる」ことを使命として作られ送られるものが広告であるからして。
 ビデオが登場したときにすでに「再生時にCMが飛ばされる」という問題は発生済みである。PVRを脅威に感じるのは、放送信号によって瞬時にCMを飛ばすことが可能になったからだ。その気分は、わからないでもない。

 しかし民放と広告会社がCM枠、タイム(番組提供、主に30秒)であれスポット(主に15秒)であれ、それを販売する際の基準は通常「視聴率」であって、それには「放送と同時に視聴し、VTRやTVゲームでテレビ画面を使用している場合は含ない」のであるから。「PVRでCMを見てくれたら儲けもの」というレベルに過ぎないのだ。


──テレビは時間である「お前はただの現在に過ぎない」──と言ったのは演出家の今野勉だが、その意味で「録画して後で見る」という行為が、テレビの持っている「同時刻性、即時性、持続性、日常性、中継性、連続性、共有制、非編集性、一斉同報性」といった「テレビの時間性」を奪っていたのが事実であるとしても。

 奪われたものは取り戻せばいい。テレビ名画劇場といったコンテンツが魅力を(放送局と広告会社にとって)失ったのは必然である。それは過去のものであり、視聴者にとっては少々のお金を出せばビデオ/DVDレンタル屋やサテライト放送で入手できるわけだし(それらにはCMはない)、録画してしまえばタダで済むからだ。

 ニュース報道やスポーツ中継がキラーコンテンツになった理由がここにある。またドラマにおいても「話題性」という点で、今でも視聴率30%超の作品が存在するという現象は、関係者を勇気づけるものであろう。

 一方「新技術には、新技術で対抗する」という手もある。EPG(電子番組表)には現在いくつかの仕様があるが最もシェアが高いのは「Gガイド」で、これにはnetにおけるバナーのような広告パネルが付いている。

 またPVRの特性からいって、CM表現における導入(最初のコンマ何秒というレベル)部分の重要性と、広義のヒッチハイク(一番最初に出すCM)の希少性が高まる可能性が高い。もちろん、視聴するに足る「面白い」コンテンツとしてのCM制作の重要性も。


 実は、この言説の中で最大の論点は冒頭に述べた「マス(大衆)に対する広告が必要なのか」という点だが、天野祐吉氏が述べているように

「世間の話題になんかならなくても、その商品を買いたいと思っている人にだけ広告は届けばいいのだ」という人がいますが、それは大間違いです。いまそれを 買いたいと思っている人にだけ届くのでは、広告はまったくペイしない。

のであり、そもそも「ほりえもん」がニッポン放送やフジテレビを狙っている理由は「まだ電波媒体が幅広いリーチを獲得することが出来ている」からに他ならない。違いますか?

“広告費の半分は無駄だということは、分かっている。問題は、その半分がどちらなのかが分からないということだ。”とは、米広告業界の至言。


(ご参考)
↓「視聴率関連の業界用語」
http://www.videor.co.jp/rating/yogo/alpha.htm
↓「EPGで選ぶ!HDD&DVDレコーダー夏の陣」
http://arena.nikkeibp.co.jp/col/20040616/108849/
↓「株式会社インタラクティブ・プログラム・ガイド」
http://ipg.co.jp/gguide01.html
↓(こんな展開もアリゾナ^^)
http://www.d2c.co.jp/news/pdf/d2c_news_041117_gguide.pdf