「誕生日を祝う」とは、出会えた奇跡に感謝すること

 わたくしのコーチングの先生、鈴木義幸さん(コーチ・エィ社長)が連載しているNBonline(要無料登録)「風通しのいい職場作り」2008年9月8日分「社員すべてが“主役”でいられる職場を作る」から、

 そんな時に、たまたまベンジャミン・ザンダーというボストンフィルハーモニック管弦楽団の常任指揮者の講演を聴く機会に恵まれました。場所はカナダのケベックコーチングの国際大会の基調講演者がザンダーでした。
 ザンダーはイギリス生まれのユダヤ人で、指揮をするかたわら音楽学校も経営していて、リーダーシップに関する講演を世界各所で行っています。各国の政財界の首脳が集う世界ダボス会議のような場に招かれて講演したこともあるということでした。
 講演のまだ序盤、彼は2000人のオーディエンスに対して、「今日、誕生日の人はいませんか?」と問いかけました。1人の女性が手を挙げると、ザンダーは彼女をステージに上がるよう手招きしました。
「皆さん、今日は彼女の誕生日です。ハッピーバースデーを歌おうではありませんか。幸い私は指揮者ですから、指揮をしましょう。立ち上がってください。さあ!」
 アメリカ人がほとんどの会場ですから、みんな照れもなく歌いだしました。ハッピーバースデーが会場に響き渡りました。すると、突然ザンダーは手を大きく振って、歌を止めました。
「皆さん、歌ってくれてありがとう。でも今のはただのお付き合いに過ぎませんね。とても心が込もっていたとは思えない。心を込めてもう一度!」
 オーディエンスはお腹の底から大きな声を出して歌い上げました。まさに大合唱です。しかし、またもザンダーは途中でストップをかけました。
「すごくいい! とてもエネルギーのある大きな声だ。でも大きな声で歌えばいいというものでもない。みなさん、忘れていませんか? 今日は正真正銘彼女のバースデーです。彼女がこの世に生を受けたことをお祝いする日です」
「ちょっと想像してみませんか? 彼女が生まれた日、彼女のご両親はどんな顔で生まれたばかりの彼女の顔を覗き込んだのかを。子供のときはどんな遊びが好きで、どんなお友達がいて、どんな夢を抱いていたのかを。学生時代はどんな恋をし、どんなことに悩み、どんなことに一生懸命になっていたのかを。
 そして最近では、どんな仕事をしていて、どんな家族に囲まれていて、どんな将来を展望しているのかを。その彼女の、正真正銘の誕生日です。心を込めて、彼女という人間がここにいることの奇跡を歌を通してお祝いしましょう。さあ!」

 オーディエンスの歌声は、ゆったりとした、気持ちの込められた音色に変わりました。会場の真ん中で、私の体は感動で少し震えました。驚いたのは、ステージでその歌を聞いていた彼女の頬に涙がつたったことです。
 この経験は自分にとって衝撃的でした。その人の誕生日をお祝いするということは、その人が確かにそこに「存在している」ということを改めて思い出す行為なのだということが、はっきり認識できました。そして、誕生日はその人の背後にある物語に思いを馳せる時間なのだと、仕事を通して出会えた喜びに感謝する時間なのだと気づきました。

 この世の中で、ある1人の人と、ある1人の人が出会う確率とはどのくらいなのでしょう。「出会い」というものをどう捉えるかにもよるため、本などではいろいろな数字が出ているようですが、純粋な数学的計算では、200億分の1にさらに100億分の1を掛けるくらいの、途方もない率になるといいます。そのくらい、出会うということは奇跡的なことなのでしょう。

 LISAmama、 誕 生 日 お め で と う !